今から8年くらい前の話。
季節は冬で、夜の18時30分くらい。
大学の、天井の照明が昇降する「撮影室」みたいな名前の部屋があるプレハブ小屋に向かって、人気のない暗い坂道を歩いていた。
建物に近づいていくと、誰か既に撮影しているようで、撮影室からは灯りが漏れている。
自分達の団体は19時からの予約だったので「ちょっと早く着きすぎたな」というのと「この部屋が使われているのは珍しいな」と思ったのを覚えている。
撮影室には待合室のような場所があり、僕はそこで自分達の番が来るのを待つことにした。
割と大掛かりな撮影をしているらしく、撮影室の方からは時々声や物音が聞こえてくる。
いつもPCを持ち歩いているので特に退屈することもなく、イヤホンをして課題の楽譜を書き進めるなどして時間を潰していると段々メンバーが集まってきた。

今まで先客が居たことはなかったので、人が来る度に「何でそんなとこで待ってるの?」というような事を聞かれたが、その度に「外から見たとき中が明るかったから」というような説明をした。

談笑している間にいよいよ19時になったが、部屋から誰も出てくる様子がない。
とりあえずノックしてみようという話になり、ノックしたが反応はない。
仕方がないので一声かけてから僕がドアを開けた。

中は真っ暗だった。

待合室を通らない出口などないはずなので、最初から誰も居なかった、という事になる。
僕はなんだかかなり血の気が引いてしまって、暫く真っ暗な部屋の入り口で呆然と立ち尽くしていた。
見間違いだったのか、聞き間違いだったのか。
実は知らない出入り口があったのか。

大学時代の先輩と話していて、そんな事をふと思い出した。